龍頭鷁首とは底の平らな、いわゆる高瀬舟を用い、舟の先にはそれぞれ龍の頭と鷁(げき)(白い大型の水鳥)の首の彫り物を飾った二隻一対の舟で、
平安時代、宮廷貴族たちは朝廷の行事や遊宴の際に楽人や舞人を舟にのせて池川に浮かべ、詩歌管弦の遊びに興じました。
舟の上では楽人が雅楽を奏し、時には童(わらべ)舞(まい)が行われます。
源氏物語の第24帖「胡蝶」でも、春の御殿の庭で龍頭鷁首の舟を池に浮かべているところが描かれています。
この硯箱は、象彦で明治から大正期に描かれた置目(下絵)を元に制作しており、
蓋(ふた)の表には龍頭・鷁首の優雅な舟遊び図が、蓋裏と身内には霞の中を舞う瑞鳥が描かれています。
水滴には舟の中で雅楽を楽しむことから、琵琶を形取っていて、デザインの面白い硯箱です。
随所に金の切金や蒔暈(まきぼか)しなど、あらゆる蒔絵(まきえ)技法が使用されているところがわかります。
桜や紅葉を愛でながら、舟の上では貴人たちが日頃の素養を披露し、典雅に過ごしていた情景が目に浮かびます。